庭に野菊を植えている。
水をやらなくても季節になると咲いてくれる。
 
庭にテッポウユリが咲いていた。
毎年、同じ時期に、同じ場所に咲いてくれる。

今朝、近づくと
白のテッポウユリが消えていた

あ、盗まれたと思った。
一瞬うろたえた。

そのユリは、毎朝手を合わせる仏壇にあった。
野菊もユリもそこに咲いていた。

もうちょっと、庭に咲かせていたかった。
ひとことそれを女房に言いたかった。

しかし、両親の眠る仏壇なのだ。
口出しは出来やしない。

庭の薄闇に紛れて野菊が咲いている。
薄紫の小さな野菊だ。

誰にも知られずに咲いている。
うれしい事に、これは盗まれない。

「野菊の墓」の小説には数多くの花が出てくる。
野菊の民さんに竜胆の僕。

あけびの花に柿の花。ぼんやり白いそばの花。
あぜ道や道ばたに咲くタウコギに都草。

伊藤左千夫はどんな人だったのだろう。
年に何度か夜中に起きて読ませてもらう。

花のある庭はいいもんだ。
宿根草はとくにいい。
同じ場所に同じ季節に咲いてくれる。

もしかしたら、オヤジも母も庭の草陰から
こっそり花を見て楽しんでいるのかもしれない。